【Happyドアの会 お店のドア セミナー資料】設計時に考えている開口部のこと
私のドアの記憶
私が子供のころ両親は商店街で小売販売店を経営していました。シャッターを開けて可動式の商品棚を並べると準備完了で、店にはドアがなく商店街に面してオープンな状態で営業していました。商店街にある八百屋さんとか、魚屋さんのような、あの形態です。
ドアがないお店なので、夏はエアコンを入れても効きが悪く、冬は店の奥にストーブを置いて暖を取っていた記憶があります。
特に冬の寒い時期の記憶は鮮明で、石油ストーブの横で泣きながら点数の悪いテストの復習をさせられたり、やかんに火をかけてコーヒーやお茶を入れたり、芋やみかんを焼いたりしていたのを覚えています。一度子犬にワンワン吠えられて追いかけられ回され、店に逃げ込んだらそのまま犬も吠えながら入り込んできたということもありました。きっと虫なんかもウェルカムで入ってきていたんだと思います。
ドアがなく外気が直接室内に侵入してくるということは、室内環境にとっては過酷な状態なんですけれど、無いことによって出来たこのような肌感覚というか経験は、貴重な財産だと思っています。
このような状態で何年か経ち、私が中学生か高校生の頃に店のリニューアルがあり、入り口に自動ドアが付きました。
「ようやくうちの店にもドアが付いたね!」と両親が話していたのを鮮明に覚えています。ドアが付くことで、少し高級店になったね!夏の暑さ冬の寒さからようやく解放されるね!という喜びの表現です。
でも、ドアが入ることで心配事も出てきます。お客さんが今まで通り入ってきてくれるだろうかということです。今までは商店街に面してオープンでしたので、商店街の延長上でいつでもウェルカムな状態です。それがドアが入ることによって、そうではなくなります。
ドアは商店街と店との間に軽い仕切りとなり、お客さんの意識としては、さあこの店に入るぞという心の準備が1つ加わることになります。店とお客さんの距離が1歩遠ざかった気になったのです。
しかし、商品の種類や客層などもあって、心配したほど影響は少なかったようです。
ドア1つあるかないかによって、ドア周りの環境や意識の持ち方が全く異なることを経験的に知ることができました。
建築設計時に考えるドア、窓、開口部、その他建具について
建築には壁、床、屋根、そしてドア、窓、その他建具など(以下、ドア(建具)とさせていただきます。)があります。それらが組み合わさって一つの建物が構成され、室内空間が出来上がります。
壁も床も屋根もドア(建具)も仕切る役割を持っていて、それがあることにより、“こちら側とあちら側”の空間が出来ます。壁、床、屋根は比較的強い仕切りとして“こちら側とあちら側”を区別するのに対し、ドア(建具)は設定次第で自由に仕切ることができます。
いくつか写真を用意しましたので見てください
こちらの写真は日本の伝統的な建築です。スライドする建具を開けることによって、室内と屋外が一体となります。室内と屋外の境目がなくなり、空気が交じり合い、室内に屋外の自然が入り込みます。自然と一体となろうという意思を感じます。
こちらの写真は海外の建築です。分厚い壁と小さめの開口部。室内と屋外ははっきりと分けられていますが、両者の間に回廊のようなものが設けられていて内でも外でもないスペースが見るからに気持ちよさそうです。内外はしっかりと区切るけれど美しい自然をどうにか取り入れたい。そんなふうに見えます。
こちらでは窓にステンドグラスが入れられ、天から降り注ぐ着色された幻想的な光によって、神の存在が意識づけられています。あちらの世界とこちらの世界という感じでしょうか。
建物によって”こちら側とあちら側”のいろいろな仕切り方や関係性が見て取れます。
ドアは建物の外観やデザインを大きく左右します。色、大きさ、素材、位置によって印象をがらりと替えることが可能です。そしてドアは最も手で触れる機会が多いパーツです。重たく背の高いドアは高級感をイメージしますし、木でできたドアはあたたかさを想像したりします。
このようにドア(建具)は、仕切る役割に加え、仕切り方の強さや工夫、質感などによって、建築空間に意味や意思を持たせることができます。
だいぶ脱線しましたが、テーマであるお店のドアでいいますと、中を見渡せるようなガラスでできたドアなのか、覗き見ることができないような重厚なドアなのか、開き戸なのかスライドドアなのか自動ドアなのか、ドア単体でデザインされているのか、ドアとその周りも一体となってデザインされているのかなど、しつらえによっても、「明るそうなお店」「シックで落ち着いた大人向けのお店」などといったように、店内に入らずして店の立ち位置ですとか、コンセプトといったものを想像することができます。
このように、設計時にどのようなドア(建具)にしようかと考えていると、どんどん迷宮に入って悩ましい一方で、新しい空間が生み出せるかもしれないといった期待をもって想像を膨らませています。
事例3作品(お店のドアがテーマなのにお店要素が少なくてスイマセン!)
屋上緑化のある店舗付住宅 House-S & No.201
こちらはグッドデザイン賞を受賞した店舗付き住宅です。1階に店舗、2階~4階は住宅となっています。
この建物の開口部に
・1階の店舗は強烈な独自のデザインやけばけばしい過剰な装飾をしない
・2~4階の住宅はオモテに生活感を出さない
というルールを設ける事で、建物全体が店舗のキャラクターであり、住宅の佇まいであることとしています。
住宅部分は生活感を出さないことによる窮屈さを感じさせないよう屋上緑化しました。
屋上緑化のある店舗付き住宅 House-S & NO.201
大きな開口のミニマルな住宅 House-F
区画整理事業が進んでいて街並みがどんどん変化しているエリアに建つ住宅です。室内環境が周囲の環境に左右されないよう、高い壁を設けて中庭型の住宅としました。
6枚の大きな建具を1箇所に引き込むことで室内と屋外が連続的につながります。
靴を履きなおして「さあ庭に出るぞ」という心構えなしに室内外を行ったり来たりできるのはかなり気持ちいいです。
地域とともに生活する 福祉ホーム有縁のすみか・六条山カフェ
手前のエリアは障害のある方たちが生活する福祉ホーム、奥に見えるのは地域の人たちも利用できるカフェ、真ん中の大屋根部分は中間エリアです。
やさしい印象と肌触りの良い木製建具を採用し、開け方のバリエーションにより、3つのエリアが広がったり狭まったりします。時々のシチュエーションによって使い方を変化させ、地域の人たちとのコミュニケーションの取り方を調整することができます。
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タカヤマ建築事務所は関西[大阪市東成区]を拠点に活動している建築設計事務所で、シンプルでありながら温かみある空間をテーマに、使い勝手が良く、その時々のスタイルに応じフレキシブルに変化対応しながら、何年も何十年も利用者に寄り添える建築を提案させていただいています
狭小住宅、中庭型住宅、障害者福祉ホームなどの「住まい」・店舗、事務所、工場、倉庫などの「働く場」・リフォーム リノベーションなどの「再生」を柱に建築空間全般の設計・監理業務を行っています
設計エリアは近畿圏だけでなく、日本全国お伺いさせていただきます。